小潮ノ月

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笠松、生きる

(1562)永禄五年  笠松、生きる
近辺の村々の田植がすっかり済んだ風が穏やかな日に、由貴は作蔵とりゅうを伴い、菅谷城から北西へ半里も歩かない所にある平澤という村に赴いた。
そこの名主の妻、つねと、つねとは気心の知れた女達二人と相対した。

まあ、御方様、こったらだ所さわざわざ来で貰って、はあ。

お初にお目に掛ります。
由貴と申します。
こちらは作蔵とりゅう。
どうぞよろしうお頼み申します。

つねが少し窮屈に肩をすぼめながら、三人に茶をすすめた。

おおきに、奥様。
あ、皆様方も、どうかそないに畏まらんと。

由貴は以前向田重六に話した、織機やら紙漉き槽の支度金を組に貸付けする事業について話し、皆の意見を伺った。

そりゃあ、資金貸して下さるんだば大した有難てえ話だべ。
そんだったって、なあ。
御方様は何でそったらに我達さ良ぐしてくれるんだべにし。
我、こったら話こ、聞いだ事無ですべ。

んだな。

それはな。
うちらは皆様から上前はねている身ですやろ。
皆様が良い暮しして貰わなければうちらが此所に居座ってる意味がありまへん。
皆様方が栄え、喜ぶちゅう事になれば、うちらも栄えるいうことなんや。
それがお互い、一番良い事なんやろて思うてますのや。

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平澤から次の目的地は東へ半里ほどの、月輪という村である。
平澤の、およそ倍の戸数がある。
由貴は途中の景色を確かめるようにして歩いていた。



一行の道程は半分程を過ぎた。
道は田畑の間を緩やかに延びている。
所々にまだ青いすすきの原と竹林があった。
すすきと竹林の間を通る道を、子供が駆けてきた。
その後ろから来るのは野盗か野武士の類だろうか。

ただならぬ気配を感じた作蔵がそちらに目を移した。

( 童あ、逃げでらな。後ろ、誰さ追われでらんだ?)

それに気付いた由貴も言った。

ああ、作蔵はん。
兎に角、あの子は助けて欲しいんやけど。

んだな。

すぐに作蔵は二人に向って駆け出した。
追掛ける方と逃げる方、既に二間ほどに距離が詰っている。

うっ。

追手は斜め前から迫り来る作蔵の姿を見いだした。
前を見、腰に手をやったが、やがて横の藪へ駆け抜け消えた。



由貴ははあはあと息をなかなか整えられないでいる子供に、ゆっくりと話し掛けた。

あんさんな、何故追いかけられてはったの?
さっきの人、あんさんを殺しかねないような雰囲気どしたな。
その訳わかるんか?

ああ、多分、あれやろ。
でも ..

ああ、この方はな。
あれ、あそこの城の御方様だして。
お前の味方さなってけるべ。
何も心配するごどあね。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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