小潮ノ月

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笠松、生きる

(1562)永禄五年  笠松、生きる
由貴は向田重六に、いつもは評定を行う部屋に来てもらった。
廊下には作蔵とりゅうが控えている。

これは楓麻の方様、ご機嫌麗しく何よりにございます。
して、私めに話とは何でござりましょうかな。

この城に来る前に由貴夫婦達のいた屋敷の前庭に見事な楓の木があり、その横手にりゅうとみさとが小さな麻畑を造ったことから、何時の間にか由貴は楓麻の方と呼ばれていた。

はい。
おっきい方からお話しすれば、実は抜道を作りたいんどす。
この城の南郭から都幾川越えた所、小山がある辺りへ向けて。
いざと言う時の為になあ。

それは、良い考えですな。
異存はござりませぬ。

後は、ですけれど。
向田様は軍師として大層名高いと聞きおよびましたんどす。
けど、どないして殿のもとへ来ることにしたん思いましてな。
こう言っては何やけど、他にぎょうさん良い口があったのではございまへんか?

あははは 。
ま、一つには殿の器量。
二つ目は、まあちょうどその頃には隠遁生活にも飽いていたのでござるよ。
殿が元服してまもなくの頃に、拙宅へ来られてな。
庭の隅にあった銀杏の大木の周りを、百編回ってワンと三回言えと申した。
我が殿は、間違いなく百回と、もう二,三回廻りきってから。

はい、はい。

こちらへ向うつもりがつつつーっと横にそれて、川に嵌ってしもうたでな。
亀殿が、もう少しで溺れるところでありましたな。

やっぱり殿様は大物なんでございますのんか?
うちの姉は殿のこと、大っきい鯨だとか言うてましたんやけどな。

当ってますな。
私の感じでは、何でも吸込むでかい袋かと。
あるいは、何でもかんでも包んでしまう大風呂敷ですかな。
ああ、御方様。
戦の時の大将として、大事なことは何だと思われまするかな?

はあ、越後の政虎はんみたいに、とびきりに強いことやろか。
あるいは、織田の殿様のように、斬新な用兵やら人使いやら。

まあ、あの御仁らは特別でありますからな。
大事なのは、死なぬ事。
大将が討死したら、その戦は負けでござる。
下手な命令を下す位なら、黙って突っ立っていてくれた方がよっぽど有難い。
大将とは、つまるところ御神輿にござります。

ああ、それで ..
うちの殿にも、充分勤まると。

そうそう。
後は評定衆や与力、あるいは我々の役目でございますればの。

話は変りますけど、うちらこの館にいつまで居られますのやろな。
この城たたんで何処かで待機は、嫌ですからな。
最初から、やり直しは。

そうでございますなあ。
北条方としては、当分動くことはありませぬ。
周りの相手の出方次第、でございましょうな。
さしあたって一番の難敵は越後の政虎かと。
まあ松山城を中心に据えたこの構えはなかなか堅固でございます故、二、三万の軍勢で囲まれようとも持ちこたえまする。
越後勢は、大概半年か一年かで帰りますからな。

そうですか。
そんならうち、金貸できますなあ。

(え?)
金貸を、するつもりですかな?

へえ。
あ、でも、普通の金貸しする気はございまへん。
金貸しなんて、なんぼ上手く立回った所で、金返す段には怨まれてお終い、ですやろ。
この城に来たからには、怨まれたら絶対にあきまへん。

ここいらのお人方には、良く良く思って頂かんと、殿様はじめ、皆様が困ります。
貸し相手は、ここいら近辺の百姓の、女衆ですねん。

女衆はんな、気の合った三,四人位で組作ってもらうんどす。

麻や綿なんか織る織機を設える支度やら、和紙漉く楮植える畑の整備やら漉き槽の支度。
美味しい漬物なんか作って売るのも、よろしな。
その支度金を、その組に貸付けるんや。

婦女子て、何やらかにやら物入りですやろ?

何でもかんでも、兎に角売れたら銭が儲ります。
この先どうしましょ、とか何やろか思うても、先立つもんが無ければどもなりまへん。
そやから、うちにもできるだけ面倒見させて欲しい、思いましてん。
別に、ここいら近辺の女衆全部面倒見ようなんぞ思いやしまへんけどな。
もっとも、そんな余裕なんぞ無いし。
ま、男衆に貸したらば、酒やら博奕やらで立ちどころにすっからかん、ですやろ。

ははは、は。
こりゃ男としては、痛いですな。
確かに確かに。
しかしいくら真田家が豊かであるにしても、御方様に金貸しするほどの金子をよう持たせてくれましたな。

それはな、真田にとと屋ちゅう小さな店がありますんやけどな、越後の本店で新しう苧扱う事業をやると聞いたんで、そちらを援助したんどす。
他に、船持と塩問屋の株を少しばかり。
前もって、父に頼んで嫁入り支度金の半分程借りて回したのやわ。

( 成程。それで嫁入りの時の持物に、値打ち物が皆目無かった訳だ。)

うちの殿は、大層お優しいからなあ。
お願いしたらすぐに、小袖や打掛けの良い物買うてくれはりました。
北条家はやっぱり真田家なんぞよりはずっと余裕ありますんやなあ。

( はて。たしか殿は脅されたとかこぼして半泣きしておったがな。)

政虎様が京へ上洛して青苧を売込んでくれたおかげで、苧問屋と廻船方からぎょうさん見返り貰ってますのや。
政虎様様や。
本当、有難いこっちゃなあ。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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