小潮ノ月

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笠松、生きる

(1560)永禄三年  笠松、生きる
笠松、お前の行く先が見つかった。

えっ、本当?
おお。

川越に近い円流寺の住職、龍泉和尚の言に、笠松の目が輝いた。

笠松には両親がいない。
江戸近くの漁師の村に生れ育ったが、四つの時に母も亡くなり、姉二人と別れ叔父の家で暮した。
次の年には庄屋の家へ下働きに出され、翌年に円流寺で下働きを始めた。
和尚は笠松が読み書き算盤に意欲があり、ぐいぐい上達していくので小僧にしたかったのだが、本人は商人になりたいと言うので、それとなく近隣や足の向いた所の商家を値踏みしていたのだった。
武蔵の国一番の大店で、松山にある上州屋が丁稚を欲しがっていると聞いたのは十日ほど前である。
上州屋は米麦などの穀物から木材、綿や絹の売買などを手広く商ってはいたが、店の主は評判が良かった。
近くの商人にもそれとなく聞いてみたが、実直で堅実な商売をしているとの話であった。
それならば渡りに船で、拒む理由は何もない。

笠松、この書物を持って行け。

将棋の指南書、と、こっちは、ええと。
孫子やんか。
ええと、わて、商人になりに行くんで、あの、お武家様にはなりとうおまへんで。

ははは。
将棋はな。
一見、戦してるように見えるな。
まあ、一つは趣味を持つ方が良いと思うのと、それに将棋は戦よりは商売に似ておるんじゃよ。
むしろ戦に似ているのは囲碁のほうじゃな。
囲碁とはつまるところ陣取合戦じゃからな。
将棋はどの駒も死なんし、取った駒は使えるじゃろ。
つまりな、対等な二人の商人がお互いに、如何に上手く使用人なんぞを使って商売し、且つまた相手の店から自分の店に移ってきて貰って、共に繁盛させ相手を圧倒するかという、命懸けではない戦いじゃな。

へえ、なるほどな。
それで戦略も大事っちゅう訳なんやな。

そうじゃ。
それに商売のやり方なんぞ、行った先で謙虚に聞けばよい。
人はの、教えたがる生き物じゃ。
お前さんなら、大丈夫じゃよ。

ああ、将棋は銭を掛けてやることが多いから気を付けたが良いな。
そうそう、あの辺りに花村元治郎という博奕場を仕切る親分がいてな。
鬼の花村、なぞと呼ばれとる。
一度行って会って見たら良いぞ。
なかなか面白い男じゃからなあ。
掛け将棋をやるコツっちゅうのを知っとるか?
どうすればよいと思うかの?

ううーん。
まず、将棋がうんと強くなることやな。
後は、なんやろ。

まあ、やった事がないのを考えるのは難儀じゃな。
あそこは、相手が花村親分だとして、一人だけじゃない。
敵は周りの子分も含め、全部じゃ。
相手が茶なんぞ啜ったり、気を取られたりしてる間に、相手の取った駒をちょろまかす。
こうして左の手をひらひらさせるとするな。
その時にこう、右端の歩を一つ動かす。

え、そんなの、卑怯やんか。

ははは、卑怯も何もありゃせん。
気付かん方が悪いのじゃ。
要は勝つか負けるかのみ。
相手のシマで勝負するとはそういうもんじゃよ。
だからの、勝負する時には、自分の知った場所、大勢の仲間、得意の戦法、とかが大事じゃな。
これは戦でも同じことじゃの。

でも、そんな所で勝つってったって、一体何をどうすりゃいいんや?
うーん、判らへんな。

まずは、冷静な心じゃな。

ああそうや。
バクチっちゅうたら皆熱くなるもんな。
頭に血ぃ昇るわな。

花村親分は相手をさんざんに負かして有金全部巻上げるのじゃ。
それからの、半分の銭を負かした相手に返すんじゃよ。

へえ-。
でも、なんでやろ。

辺りはすっかり暗くなっている。
財布がすっからかんのピーピーになる筈が、銭が半分戻ってきた。
この相手、そのまま素直に家に帰るかの?

多分、また他の誰かと勝負しよるやろな。

そのとおりじゃ。
その相手をするのが、子分達じゃ。
子分だとて、自分の稼ぎで生きろということじゃよ。
上手い仕組じゃろ?

そやな。
それ、面白いな。

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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