小潮ノ月

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小田原へ

(1558)永禄元年  小田原へ

荷駄の後ろにやや遅れて付いていく一行の中の、槻乃の歩みだけが半身分づつ右へ左へと蛇行していた。

〈 奥方様、やっぱ酔うてんやなあ・・ 〉
幸広様、あれ、奥方様が。

ああ、わかっておるで。

もう半時程も歩けば酒は抜けてしまうであろうが、怪我でもしようものなら後々面倒な事になると思われた。

旦那様、これ、何どすか?

幸広の持つ紐を手に取り、槻乃が尋ねた。

槻乃様は酒に酔っております様で、一応用心のため。
それがしとを結ぶつもりにございます。

へえ、うち今、酔うておるんどすか?
それで、なんや、ふんわかしとるんやなあ。
そんならなあ、それよりはほら、こうすれば。
お互い様にしっかりと、手と手え結んだ方が、うちは良いなあ思います。

槻乃は両の手で幸広の左手を取り、しっかりと自分の胸に宛がい、大事なものを抱くようにして歩き始めた。
すんなり伸びた手の指の片方がごつい掌を捕えた後、前を向き、たまに幸広の顔を見ながら話し続けた。

旦那様、うちは貴方様と夫婦になれて本当に嬉しうござりました。
思えばうちが小っちゃい頃から、こんな時が来ればよろしいな、来てほしいなあ思うとりましたんえ。
うち、本当に嬉しおす。
祝言終った後の初事のこと、覚えてはります?
うちら、よろしゅうお頼みもうしますの御挨拶んとき、でぼちん同士ぶつけ合いましたなあ。

芳蔵が前を歩く滋野瑛哲に並んで、小声で話し掛けた。

滋野様、わてら黙って聞いてて良いんでっしゃろか?

仕方ないやろ。
御役目やで、どもならん。

その後、芳蔵は瑛哲の顔が福笑いのように複雑に変っていく様を横目で眺め続けた。

路上ですれ違う人は、忍び笑い、囃子たて、あるいは羨ましげに、振返り、通り過ぎて行った。
槻乃は向ってくる人一人一人に丁寧に、満面の笑みを返した。
いつもなら酔いが醒めている頃合なのに、幸広の顔は赤かった。

テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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