小潮ノ月

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小田原へ

(1558)永禄元年  小田原へ

あれまあ、えろう久し振りやな。
誰か思たら芳蔵はんやないか。
近頃どないしてたんや。

まあごらんの通り、いつもどおりの変わりなしや。
お前さんのその格好、午六が戦で怪我したんで、商に出とるんか?

そや。
もう戦で命取られる心配が無いいうのはいいんやけど、畑仕事やと、子達も居るしそりゃもう食ってくんは辛いんやで。
わて、結構遠くへも行きますんや。
甲斐の内だけやのうて、信濃や駿河にも行ってるんやで。
これはわてやお義母ちゃんが織ってんのや。
綺麗やろ。
方々の武士衆ん家な、よう買うてくれるんや。

女は緑や浅黄、黒などが繰返し綾を為すその織紐を見せた。

芳蔵は女に近づくと、顔を寄せて小声で聞いた。

うめはん、本原の奥様んとこへは、言うてあるんか?

そんなん、当り前やろ。
織機も貸してもろうたし、何かとお世話になっとるわ。
んーん、これが本当に楽しみやでな。
後は家まで、帰るだけやし。

うめは当然という顔で、折敷に置かれた椀の酒を一口飲んだ。

あれま、ちゃうやんか。
甘酒やで、これ。
わてが頼んだの、酒のほうなんや。
これ、取替えてんか?

ちょうど飯一椀と一汁二菜を折敷に載せ、持って来たさとに、うめが言った。

わいは~
どんどすべななあ。
んだばだって、わだば男の人ど一緒にいるおなご衆さ、甘酒置いでこって言われだんだども。

さとは、みるみる泣きべそ顔になった。

〈 え? 〉

話を聞いた芳蔵は、直ぐに槻乃の元に参じた。

奥方様、この椀全部、飲みましたんか?

芳蔵は、空になった器を手に取り確かめた。

へえ、大変美味しうござりました。

それで、なんともございまへんか?

んー、なんともおへんなあ。

さして乱れる風もなく、頬にほんのり紅を差したように見えるが、その他は特に変った様子も見えない。

〈 案外平気そうやな、よかったやんか。奥方様は、こりゃあ呑兵衛の才があるんかな。〉

嬢ちゃん、ここに酒、一つ頼むで。

戻った芳蔵が、うめに言った。

まあ、いいやんか。
うめはん、わてのおごりや。
その甘酒、わてにもちょいとくれへんか?

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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