小潮ノ月

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砥石落し

砥石落し
天文二十年(1551)  
深夜。
ごく偶に半分の月が雲間から顔を覗かせた。

内小屋と呼ばれる、義清のいる館に回り込んで砥石城の大手口へ通じる路の側、木立の陰に真田の精鋭と草の者六十余りが潜んでいる。
館と言っても崖の上にあり、城の備えの一部となっていた。

〈 わてらでは相手に気取られんと館に近づけるのはここまでや。後は才蔵達に任せるしかないな。〉

館の裏手、本城に向う尾根筋に才蔵以下二十がたどり着いていた。
いつもは戦で乱波を行う草の者のほかに、修験者、山伏として諸国に散っている者も加わっている。
幸隆は彼らの、砥石城の険しい断崖を踏破できる術を見込んだのだった。

〈 盛大にやってくれや。義清には葛尾城へ帰ってもらわにゃな。〉

荷車を引いてきた人夫達が寝ている物置の、戸に掛った心張棒を外す者がいる。
中から出てきた四つの影が小屋の脇に回った。
戸がそっと元に戻された。

真田より来た荷車の、丸太の下に括られたつづらの脇を探る手がある。
横板がずれて抜かれ、地面の上にそっと置かれた。
隣の荷車も。
その隣は筵の束の下のもっこから。

甲冑を着け、半弓の弦を張る。
取り出した樫の柄に別の柄を印籠継ぎで回し固め、槍を拵える。
炮烙玉の入った袋を腰に結わえた。
刀を差し、矢櫃を背負う。

〈 伊兵衛は源五郎様の所へ。残りは裏門に回る。〉

口は開かず、手だけで指図を終えた。

〈 頼近様がいるのは、何とも心強いやないか。〉

半時後。
突然ドーン、ドーンという爆裂音が館中に響き渡った。
叫び声がする。

山手から呼応して、法螺貝が朗々と響き渡る。
同時に陣鉦や太鼓が鳴り響いた。

義清は布団をはね除けた。

敵襲、敵襲である!
各々方、備えよ!

わあわあと声が沸き起った。

夜襲か、何処だ。

御館様、裏門が破られたよし、お味方が足りませぬ。

殿、大手口あたりに敵勢三百程。
裏手と東からこっちに向って来ておりまする。

厩の方で火の手が上がった。
矢が一本、義清の右方の障子戸を突き抜けた。

武田か!? くそっ。
ええい、致仕方無い。
高梨、景国にも伝えよ。
退くぞ。
急げ。

― ― 了 ― ― 

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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